限りなく日記に近い何か

 スーパー銭湯に行くと裸の幼女が駆け回っていた。キューピーを思わせる身体に、下膨れ気味の顔をしていた。僕は性的倒錯者ではないので、それを見ても春の庭先で寝転ぶ猫を眺めるような気持ちでいたけれど、大衆浴場の中には重篤なペドフィリア罹患者がいるかもしれないので、もしも僕が父親になっても男湯に娘を放り込むようなことはしないだろうなと思った。

「年上の男の子が来たときは、ちょっと妙な気になったよ」ビールのグラスに付いた水滴を指で拭いながら、彼女が言った。

「やっぱり意識するの」肴のキンピラを小皿によそって、僕は訊いた。

「うーん、そうだな……父親や大人のそれはさ、自分には関係が無いものだって認識だったけど、同年代だったり、年上の子のものは、急に現実味を帯びて来るんだよね」

「生々しいものとして?」

「そう、生々しいものとして」

 僕はキンピラを咀嚼しながら、男湯に娘を同伴させた父親について考えていた。多数の愚息の群れの中に娘を連れて行く父親は、飼いならされた熊と暮らすアメリカの家族の長に見えた。こいつは怖くないから大丈夫だ、と高をくくっていると、気がついた時には剥き出しの牙でガブリ、と喰われていることもあるわけだ。娘と同じくらいの背丈の小熊にだって、注視すると鋭い爪が隠れていたりするのだ。僕はやはり娘が出来ても男湯には一緒に入らないぞと決意した。

 しかし、これこそ取らぬ狸の皮算用というもので、今は狸よりも目の前のビールを飲み下すほうが有意義だった。おしんこと大根サラダ、揚げ物を食べて、駅まで彼女を送り、帰路についた。